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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第4章 ♠ RoundⅢ(淫夢)♠ 
 直輝と歩んできたこの長い年月は、彼にとっては何の意味も持たないものだったのか?
 夫婦として苦楽を共にしてきた紗英子よりも、有喜菜との友情の方が大切なのだろうか。 いや、それは違う。直輝が有喜菜にそのことを話したのは、もう二十三年も前の昔だ。それを今更とやかく言っても始まらないのは判っている。しかし、紗英子が気がかりなのは、その後、直輝は紗英子に話そうと思えばいつでも話せたはずなのに、一向に話してくれなかったことだ。それが何より辛かった。
 所詮、自分は直輝にとって、その程度の存在なのだろうかと考えると、情けない。
「ともかく、もうこの話は終わりにしよう」
 直輝が突如として、宣言するように言った。
 低い、感情のこもらない声はつい今し方まで紗英子に熱く〝愛している〟と囁き、情熱的に何度も彼女を抱いた男とは全くの別人だった。
 紗英子はふいに有喜菜が憎らしくなった。何もかも、あの女のせい。有喜菜が私に直輝との秘密を暴露したりするから。
 現実には秘密を暴露したわけではなく、ただ直輝へのプレゼントに悩む紗英子に適切なアドバイスをしてくれただけなのだが。
 しかし、あの時、有喜菜に二人を仲違いさせてやろうという邪心がなかったと誰が言い切れるだろう。―そう考えてしまうのは、自分の心が歪んでいるせいだろうか。
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