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真夜中の贈り物
第15章 薔薇のひとつ

 銀色に輝く真鍮製の指輪に埋め込まれた石には、王家の紋をかたどった彫り物がほどこされた。

 その紋への――王家に対するノヴァリスの想いには、複雑なものがあった。

 長く続いた現王の悪政のために、世には腐敗がはびこり、それに対する市民たちの不満は限界まで高まりつつある。

 王都で食い詰めた者達が野盗となり、追剥まがいのことをし、中には、王を殺して革命を起こそうというきな臭い動きもあるという。

 それもあながち、あり得ない事ではない。かつて現王の即位の際、血なまぐさい後継者争いに巻き込まれた前王の娘がもう十年以上も行方不明のままなのだ。生きていればとっくに成人している。

 彼女が見つけ出されて革命の御輿に担がれようものならば、話は一気に現実味もおびてこよう。

 騒乱の中で死んでしまったのだとか、秘密裏に処刑されただとか、そんな噂もあるにはあるが、そうだったとしても、堕落しきった現在の貴族、王族に対する市民の憎しみは、ささいなことがきっかけでいつ暴発してもおかしくはないのだ。
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