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真夜中の贈り物
第15章 薔薇のひとつ
「さて、隠し場所といっても緊急時に慌てて取りに行くようでは意味がない。当然、鍵は身に着けているものと推測するわけだが……おとなしく渡して貰えれば部下と貴女の命は保証する。いかがかな?」
「鍵など……持ってはいないわ」
ノヴァリスは目を逸らして呟くように答えた。
フェリックスが今度はぐるりと身体ごとアサージのほうに向き直る。
「隊長さんは鍵をお持ちではないそうだが……お前の情報はガセネタだったっということか? こちらも襲撃には時間と金をかけて準備をしなければなかったし、命を落とした仲間もいる。もし、無駄足を踏まされたということになれば……」
落ち着いた口調ではあったが、むしろそれだけに凄味があった。
その言わんする意味を察したアサージが慌てて遮る。
「そんなはずはねえ! 俺は嘘なんかついちゃいねえよ! ちゃんとコイツは鍵を自分で持っているはずだ! ま、待ってくれ! 今、俺が……」
そう言ってノヴァリスに駈け寄って声を荒げる。
「おいっ! つまんねえハッタリなんかよせ! 命が惜しくねえのか!」
「悪党にへつらってまで惜しむ命など持ってはいないわ……少なくとも近衛隊の一員であるなら」
裏切り者への侮蔑のこもったその言葉に、アサージが頭にカッと血を上らせる。
「女のクセに生意気な口をききやがって! よし、いいだろう。なら、そのプライドをどれだけ保っていられるか、試してやる……!」
言うなり、ノヴァリスのチョッキに手を掛けて乱暴に引き千切る。
「きゃああああっ……!」