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真夜中の贈り物
第15章 薔薇のひとつ
つい声を荒げてしまったのは浴槽の中のノヴァリスの方だった。
あまりにも馬鹿馬鹿しい隠し場所だ。
その剣幕を見てフェリックスがふっと表情を緩める。
「そうだな、その通りだ。いくらなんでも滑稽だな。だが、そうだとすれば……どこかもっとまともな所に鍵を身に着けていると考えるべきかな」
ギクリとしてノヴァリスは顔を強張らせた。
湯船の下で、指輪をした手をギュッと握り締める。
「だが、今はいい。言った通り、貴女と話をしたいのだ、近衛隊長ノヴァリス・シュープルーズ殿」
「交渉の余地などないわ……鍵はここにはない。別の所に保管してあるの。兵舎の隊長室よ。欲しければそこまで忍び込んで盗み出せばいいわ。警備をかいくぐるのは無理でしょうけど、それが野盗のやり方ってものではないかしら?」
考えておいた嘘を口にする。
ノヴァリスはじっとフェリックスの顔色を覗い、落胆か困惑、あるいは嘘であるという反論の兆しがないかを観察した。
しかし、彼の反応は予想のどれとも違っていた。
「……俺は野盗ではなかった。一介の大工の子として育った。そして俺の姉は娼婦だった」