この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
真夜中の贈り物
第15章 薔薇のひとつ
「……?」
突然の身の上話に訝しむノヴァリス。
だが、フェリックスはかまわず言葉を続ける。
「俺の父親はいい仕事をする棟梁をしていた。だが、役人に賄賂を払うためのカネがなくて仕事ができなくなってしまった。自分の家族や仕事仲間を食わせるために、売られることになったのは当時まだ成人もしていない姉だったよ。俺にとっては早くに亡くなった母親代わりの、面倒見のいい優しい姉だった」
言葉を切り、ノヴァリスから視線を外してどこか遠くを見つめるような目をするフェリックス。
「……娼館を紹介したのはある貴族だった。あとになってわかったことだが、そいつは美しかった姉を最初から狙っていたのだ。役人と協力して父を窮地に陥れ、そして……娼館に売り飛ばされた姉の最初の客が……そいつだった。姉は毎晩そいつに抱かれ、男の悦ばせ方を教え込まれた。それも、まともなものじゃない、ねじ曲がった……口にするのも悍ましい特別な悦ばせ方を仕込まれたのだ」
フェリックスはそこまで語って、しばし物思いに沈んだようだった。
ノヴァリスは彼の背を見つめながら浴槽から出て、与えられた布で裸身をぬぐい、それを身体に巻き付けた。
「馬鹿なのは親父だった。身を粉にして働けば姉を身請けすることができると信じていた。だが、数年かけて血を吐く思いで貯めたカネを持って娼館を訪れた親父は淫蕩の罪で捕まった……娘を身請けに来たのだと訴えても聞き入れられなかった。最初からそう仕組まれていたのだ。無実の罪で親父は断頭台にかけられ、死んだ。処刑人たちに嘲りの言葉と罵倒を浴びせられながらな!」