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Memory of Night
第11章 罠
「――俺は……知りません」
大分間を空けて、晃はようやくそう絞り出した。
期待に瞳を凝らしていた志穂が、残念そうに微笑む。
その表情に、晃の胸は小さく痛む。わずかな罪悪感。
宵が体を売って、その金で志穂の手術費用を賄っていることをこの人は知らないのだろう。
当然と言えば当然だ。言える筈もない。
純情そうに見えるこの人には多分そんなこと思いつきもしないのだろう。
「ごめんなさいね……いきなり」
志穂は言った。
「あの子、なんにも教えてくれないから……」
「いえ」
晃も首を振ってそれに応える。
「入院したての頃は、もっとちゃんと教えてくれたんだけどね……バイト先のことも、自分のことも。……今じゃ会いにすら」
そこではっとしたように、志穂が口をつぐむ。
「言って……なかったわね。あたしあの子の母親なの」
「……聞きました、宵から」
「そう」
志穂は目元を和らげた。
「あの子に、あなたのようなお友達……いたのね。知らなかったわ。……そういえば、ここに誰かを連れてきたのも初めてだったのよ?