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Memory of Night
第11章 罠
それは、夏休みの少し前に宵と一緒に病室を訪ねた時のことを言っているのだろう。
あれは、宵に病室へ連れてきてもらったわけではない。志穂の見舞いに来ていたらしい宵と、母の連れとして病院を見学にきていた自分がたまたま病室の前で鉢合わせただけだ。
軽はずみな気持ちで半ば無理矢理病室に押し入ったのも自分。
その時に聞いた志穂の話も、祭の日の夜に聞いた詳しい事情も、聞き出したのは晃の方だった。宵が自分を受け入れて、自ら話してくれたわけではない。
「あの子が、どこまで話したのかは、わからないけど……」
言葉を切り志穂は苦しげに浅く呼吸を繰り返す。
晃が心配になって横にさせようとすると、志穂はやんわりそれを拒んだ。
「少しだけ」
そうつぶやいて、晃に微笑みかける。その笑みは、春の陽だまりを連想させるような柔らかなものだった。
宵とは似ても似つかない、むしろ正反対のその笑みに、晃の胸に苦いものがこみあげてくる気がした。
なぜだかわからない。
「あの子とあたしは、血がつながってないの」
過去を思い起こすように瞳を細め、志穂は続ける。