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Memory of Night
第11章 罠
「他に?」
志穂は頷いた。
「……あたしも、小さい頃に両親を亡くしてるの。二人とも事故じゃなくて病気だけどね。それからずっと、祖父母に育ててもらっていたんだけど、宵に会う少し前に二人とも亡くなってしまったの。――あの日、病室で暴れている宵を見てね……境遇が似てると思った。そう思ったら放っとけなかった」
汗ばんだ肌に張り付いた短めの髪を耳にかける。その腕は点滴だらけだ。
「でも、あたしとあの子は違う」
声の調子を強めて言う。
「あたしはもう働けた。独りでも生きていけたわ。だけど宵はまだ十よ。そんな年で世間に放り出されたって……生きてけるはずないわ」
志穂は再び目を閉じた。
瞼の奥に浮かぶのは、白で統一された無機質で冷たい病室。わずかに血の匂いの漂う七年前のあの部屋で、弘行に抱え上げられていた宵の姿だった。
泣き腫らした目で見上げてくるその姿は、父を失い、母にしがみついて泣きじゃくっていた幼い頃の自分と重なった。
初めて、大事な人の死に触れた。その現実を受け止めることができずに、父の亡骸を見ることもできず母の腕にすがりついていた。