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Memory of Night
第11章 罠
それでも、自分はまだ恵まれていた。両親は二人とも病死だったからある程度死期を予測できたし、子供ながらに心の準備をしておくことができたから。
それに自分には、悲しい時にすがりつける人もいた。父の時は母が、母の時は祖父母が自分を支えてくれたのだ。
だけど宵には、誰もいなかった。突然の事故で同時に両親を失い、身よりすらない。
「あのままでは、きっと施設に送られてしまう。だったら自分で育てたいって強く思ったの。宵を引き取ったのは、ほとんど衝動に任せた行動だった」
でも……と言いかけて志穂は口ごもる。
「やっぱりあたしは、母親の器じゃないわね。宵に、迷惑ばかりかけてるし……面倒を見てもらってるのは、いつもあたしの方だもの」
わずかに語尾が震えていた。かすれた声がさらに聞き取りにくく、晃が志穂の口元に耳を寄せる。
志穂は穏やかだった瞳を歪めた。陽だまりのような暖かな雰囲気が飲み込まれていく。
「……あたしじゃ、母親になれない……っ」
悲鳴のような声だった。
掛け布団を掴む手が、強く握りしめられる。