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恋花火
第30章 快楽の彼方
陸先輩が起きちゃう前に、早く涙を止めなくちゃ


変に思われてしまう


そもそも、なぜ泣いているのか自分でも意味がわからないよ



陸先輩を起こさないよう、そっと部屋を出て、洗面所で顔を洗う。


「…くっ、うぅ〜、ひっく」


もう涙は止まってるのに、泣きじゃっくりが止まらなくて苦しい。


「ぐるじい」


鼻かんだりお水飲んだりして、ようやく落ち着いて部屋に戻る。


「わぁ!」

「わ!!」

「びっ……くりしたぁ。」

「俺もびびった。起きたら誰もいなくて、一瞬ここどこ?って思った。」


へへっと笑う陸先輩。浮かぶ笑い皺が、凝り固まった私のギスギスした心を溶かす。


やっぱり、めっちゃ癒し系。


「おなかすいてません?なにか作りましょうか?」

「オムライスとか?」

「作りますよ!」


そう言うと先輩は、「うそ、いいよ。」と言って帰り支度を始めた。


「もう今日は遅いし帰るよ。こんな遅い時間までお邪魔しちゃってごめんね。」

「邪魔なんて、そんな。」

「もう23時になるし。この時間に男が部屋にいるのはマズイでしょ。」


……そんな事ないよ。


タケルなんか、バンバン泊まってたよ?


なんなら、0時過ぎに窓から侵入して勝手にベッドに潜り込んでくることもあったし。


紳士的な陸先輩とは大違いだよ。


勝手に隣に寝て、許可なく私の服を脱がせて______


「……菜月ちゃん?」


気づいたら、陸先輩の腕を掴んでいた。


「……帰らないで。」

「え?」

「帰っちゃダメ。」


紳士的な陸先輩。


そうじゃない私。


「……誘ってんの?」


その問いかけには、答えなかった。


けれど私はキスをした。


……私、いつからこんなに肉食になったの?


自分から誘うような


淫らな女になるなんて


14歳の頃の自分からは到底考えられないよ。







"俺、菜月のここが好き"


思い出したのは、タケルの言葉。


"やわけーし、気持ちいい"


そう言って揉みしだかれた胸





その胸を今は、違う男に触られている


私たちはいつのまに


幼なじみという狭い世界から飛び出したのだろう


「菜月……」


耳元で陸先輩に囁かれる。


その瞬間、背中の中心がゾクッと震えた。

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