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恋花火
第49章 ALONE
雪が積もっていて足がとられる。


けれども私は走った。


普通に考えて電車に乗ればいいのに


一駅分走った。


タケルの家に来るのは、本当に久しぶり。


よく知るその家を目の前にして、様々なことが頭の中を駆け巡る。


春の暖かい日も


夏の香りがするあの日も


落ち葉が踊った秋の日も


雪だるまを作った冬の朝も


来る日も来る日も通ったこの家に


今、私はなにをしに来たのだろう。






「タケルー!!」


そう、私はタケルに会いに来た。


外から名前を呼ぶと、窓からひょっこり顔を出して、ニコッと笑うの


声でけーよって笑いながら……



「なっちゃん?」


玄関から顔を出したのはタケルのお母さんだった。


「……久しぶり、元気だった?」


そう話しかけられて、私はそれに答えなかった。


「タケルは?」


お母さんはそれを聞いて、少し険しい顔になった。


ふと玄関先を見ると、大きなポリ袋が置いてあって


その中に見つけたサッカーボール。


「あれタケルの?」


指差すと、タケルのお母さんは「そうだよ」と言った。


「見てもいい?」

「いいよ。」


ポリ袋の中からは、タケルのスパイクもたくさん出てきた。


「これ、捨てるの?」


その質問には、タケルのお母さんではなく


見たことのない男の人が答えてきた。


「捨てるよ。」


微笑むその人は、タケルの家の中から登場してきた。


「……菜月ちゃん、だよね。君のことは知っているよ。」


誰?そう聞かなくてもわかった。


タケルのお母さんの恋人だということが。


じゃないと家の中から出てこないし


それにポリ袋の中身のことまで知ってるはずない。


「もう使わないから。」

「なんで?」

「……それらを置いてここを出て行ったし。もうサッカーも続ける気がないんじゃないかな。」

「タケルがサッカーやらないって言ったの?」


私はまだ信じていた。


だって、全国大会が待っているのに。


それに大好きだったサッカーをそんな簡単にやめるはずなんかない、と。





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