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第2章 始動
少し早いけれど、と言いながら彼が連れてきてくれたのは、和食屋だった。
イタリアンとか行きそうなイメージだったのに、またしても覆された。
暖簾をくぐると、カウンターがあるだけ。
奥に行くと個室が2部屋あるとのことだったが、敷居の高さを感じる。

カウンターに掛けると、友香は注文を綾瀬に任せた。
常連なのだろうか、メニューを眺めるでもなく、何品か頼んでくれている。

お通しの里芋とインゲンを平らげると、サンマの刺身が目の前に置かれる。

「残念。ダイエット中じゃなければ日本酒飲んだのに」

一口食べるだけで、魚特有の油が口の中に広がる。

「飲んじゃえばいいじゃん。美味しいと思うよ、サンマに日本酒」
「んー、でも山口さんに我慢しましょうって言われたんです…」
「あは。それはね、飲み方。お酒って糖分とか気にする人いるけど。日本酒だったらアルコールと一緒でそんなに吸収されないんだよ。問題なのは、お酒を飲むとカロリーの高いものや塩分、油分の高いものを一緒に取りやすくなるから太るってのが、正解かな」

悪魔のささやき。
一週間頑張ったんだから、ご褒美あげるよ。
その甘い言葉に友香は日本酒を一杯だけ頼む。

「んーっ。やばいっ。この一口目のアルコールが体に入った瞬間が大好き」

つい敬語も状況も忘れ、友香は声をあげる。

「清々しいほどの飲みっぷりだね。今度うちの店にもおいでよ。友香ちゃん気にいるよ」

綾瀬は駅前にある居酒屋を経営しているらしい。
行ったことはないけれど、仕事の帰りによく目にした店だった。
小洒落たバーでも、若い子に人気の創作料理を出すような店でもなく。

仕事帰りにサラリーマンがふらっと立ち寄りそうな串物がメインの、暖簾のかかったよくある居酒屋。
表から見る限りでは、大きくもなく、今の店と同じようにカウンター中心のお店なのだろう。

本当に綾瀬には驚かされてばかりだ。
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