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Complex
第4章 新天地
最初は好奇心でチラチラと送られる視線に戸惑ったものの。
しばらくすればお客たちはそれぞれがまた元の会話に戻ったようだ。
手が空いたのか、綾瀬は友香の目の前で笑いながら他の客と話している。

大将。

普段の綾瀬は大将というよりはマスターの方が似合いそうなのに。
今日は黒いTシャツを着て。
髪は結んでいない代わりに、黒地に白の模様の入ったバンダナで頭をぐるっと覆っている。
確かに、この姿は大将だ。

友香が頼んでもいないのに、目の前には何品かの料理が綾瀬の手によって運ばれてくる。
ササミの霜降りだったり、冷やしトマトだったり。
その気遣いが、嬉しい。

時にはカウンターの他の客の会話に混じり、その時間を楽しんだ。
気がつけば日付も変わっている。
周りにいた客たちも、終電の頃になるとぞろぞろと帰り支度を始めていた。

全ての客が帰ると、綾瀬はバイトの男の子二人を帰らせた。
意味深にこちらを見やる視線は、なんとも言えなかったけれど。

二人きりになった店内は想像以上に静かで。
でも、焦ることはない。
綾瀬は時に饒舌だけれども、沈黙を楽しむことも知っている。

友香は氷の浮かぶ薄い焼酎を飲みながら、仕事を終える綾瀬を一人カウンターで待ちわびた。
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