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Complex
第4章 新天地
仕事を終えると、綾瀬はどかりと友香の隣の席につく。
髪に巻いたバンダナを外して首を振ると、少年のような笑みを見せた。

「ちょうだい」

友香の飲みかけのグラスを手に取ると、流し目に友香を見ながら口に含む。

まただ。
流される。

そう思った時には、唇を奪われていた。
お酒で湿ったその唇は、少しひんやりとして、それが現実だと呼び戻される。

「んっ、綾瀬、さんっ」

冷静にならなくては。
今日こそ、こんな風に流される前に、きちんとけじめをつけなくては。

そう思っていたのに、綾瀬は友香の耳に口を這わせながらスーツのボタンに手をかける。

「待って…」

必死に手をどけると、綾瀬に向き合う。

「あの…」

言葉にしようと思っても、うまくいかない。
あなたが好き。
あなたと付き合いたい。
あなたと一緒にいたい。

そんな甘い言葉を口に出せるには、年をとりすぎた。
34にもなって、そんなことを言える人に会いたい。
心からそう思う。
あと10年若ければドラマや小説のようなセリフも吐けるのに。
それすらもできない。

できたとして。
相手は大人の男だ。
欲望のスイッチが入った男は平気でその甘い言葉を受け止める振りをして嘘をつくかもしれない。
性欲を発散するためだけに、その場限りの肯定をするかもしれない。

綾瀬がそういう男でないと、どうして言い切れる?
だって、現にこうして心を明かさないままに友香の体を弄ぶ。


言葉に詰まった友香は、口づけを再開した綾瀬に抵抗できない。
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