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やさしいんだね
第2章 情熱は二種類
 ソンは唖然と口を半開きにしたまま、ゆっくり前に向き直った。
 そしてため息混じりに呟いた。

「その発想はなかったわ」

 小百合自身も同じことを感じていた。
 
「そうだよね。バカみたい。私」

 少女の扱いに慣れきっているソンはデイトナのはまった左手を小百合の頭に伸ばし、柔らかい頭髪を優しい素振りで撫でながら言った。

「いや、わかるよ。気があるんだろ?健気だね。泣けるよ。せっかくの処女がパーだってのに。ヘヘ。別にいいぜ、誰の財布から出たって俺の取り分は変わらねぇし?小百合が色黒さんの代わりに俺に3割払ってくれたらいいってだけで」
「本当に?」
「その代わり15万だ。15万の3割な」
「は?さっきは8万って言ったじゃん!」

 車は渋滞気味の内環でまたもや信号に足止めされる。
 小百合は納得がいかない様子でソンを睨みつけている。
 ソンは小百合の頭から手を離すと、煙草のヤニで黄色く変色した歯を剥いて笑い、灰皿の上に放置されていたシケモクに手を伸ばした。

「ところで小百合様。規則のことは分かっておいでですよね?」

 左手でライターを操る冷め切った瞳のソンが、眉間に皺を寄せたままの小百合をピタリと捉えた。

 暗闇より深いつや消しのような黒色をした、ソンの瞳。

 ソンのこんな目を見るのは、何度目だったろうか。
 考えているうちに、小百合の身体は完全に冷め切ってしまった。

「へへ、俺はだね。小百合だけは実のお父さんの松浦君とかさ、つい先月までお前さんの大親友だった千夏ちゃんみたいな運命を辿らずに、将来立派なお医者さんになってもらいたいと思っているわけなんですよ。ね?一番人気の小百合様が大お得意様の色黒さんに惚れようが、ソン君はそんなことまで干渉しませんけどぉ?でも俺を怒らせるようなことだけは、ね?頼みますよ。お互いのために。ヘヘヘ・・・」
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