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やさしいんだね
第2章 情熱は二種類
 室内にAKB48が響く。


 ソンからの電話はしつこい。
 どれだけ無視しても5分置きに掛かってくるその電話は昼過ぎからだからもう連続50回目くらいだ。
 小百合は背を丸めて机の前に座っていたが、掌でテキストを思いっきり叩くとうんざりした声を上げ、ようやくiPhoneを取り上げた。


〈よぉ小百合ちゃん、今日は調子どうかな?●●に18時、迎えに行っても大丈夫かい?〉


 やっと出たなと、安堵と欲望に満ちたソンの低い声が用件を述べる。
 それがあまりにも一方的だったから小百合は苛立ちを隠しきれず、やや強めの口調で言った。


「今日は無理って前から言ってたでしょ。塾のテストなの」


 電話の向こうでソンはオーバーに〈そんなこと言わずにさぁ〉としつこく食い下がって来る。
 しつこさでソンの右に出るものはいないと小百合は思っているが、それは正しい。
 金に汚いこの男は稼ぎ頭の小百合を口説き落とすことで毎日必死になっているのだ。


 やはり電話に出るべきではなかったか、小百合は苛立ちと後悔を抱えつつ、きっぱりとソンに言い放った。

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