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やさしいんだね
第5章 鮮血と赤箱
 冷え切った小百合の脚を、柔らかい化学繊維がじんわりと暖める。
 ぱさついた髪を撫でる熱気は優しかった。


 ―――こんな男でも、家庭を・・・。

 
 認めたくないがために、小百合は鮮明な思考を3年前の教室へ移行させようと努力した。
 けれども、努力は水の泡と消えた。




「痛かっただろ」



 そのようなことを、小百合が忌み嫌う“教師”という立場の男が呟いたせいだ。




「あんなに血をだして」




 目を開けたかった。
 けれども、どうしても目を開くことが出来なかった。




「それも、おかしなとこから」



 目頭から生暖かいものが流れて枕に染み込む。
 目を開いて、泣いてなんかないと八田に言いたかった。
 目を開いて、痛くなんかなかったと。
 目を開いて、おかしなとこなんかじゃないと。
 目を開いて・・・・。



「かわいそうにな」




 八田に。




「こんなことしなきゃ生きていけないような親のもとに生まれたなんてな」




 私をバカにしないでと。
 小百合は言いたかったけれど、どうしても目が開かなくて、言えなかった。









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