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純の恋人
第8章 不信
若頭が呼び寄せた成実という人は、私と同年代くらいの男性だった。極道には見えないけれど、サラリーマンにも見えないその人は、子犬みたいに目を輝かせて私に握手を求めてきた。
「で、デビューの頃からずっとファンでした、サインください!」
「え? あの、サインって?」
「成実、彼女は記憶を失っていると話したでしょう。真面目に仕事をする気がないのなら帰りなさい」
「だって、若! 生アンジュなんスよ! 若は知らないかもしれないっスけど、アンジュが仮面外してるなんて奇跡なんスから!」
私はかつて、これほどまでに彼のテンションを上げるような歌を歌っていたんだろうか。いくら熱弁されても私にとっては、遠い話だった。
「すみません、成実は少し気の利かないところがありまして。粗相をしたら、遠慮なく殴りつけてください」
「いえ、殴るなんて……あの、それではさっそく、行きたいところがあるんです」
私が全部話す前に、成実さんは大きく頷き手を取る。
「アンジュの頼みなら天国でも地獄でも! アメリカだって三十分で行っちゃいますよ!」