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純の恋人
第8章 不信
 
「いえ、そんな遠くではなく。その、土居記念病院へ」

 イドさんが入院しているはずの病院。私と同室であるのが嘘ならば、なんでそんな嘘を吐いたのかを聞かなければならない。事件には関係ない、何か別の理由があるんだと、そう確信するために。

「病院って、悪の巣窟なんスよね? 大丈夫なんスか?」

「大丈夫です。どの道動かなければ、何も分からないんですから」

「まあ、護衛も任務っスから、妙な事は誰にもさせないっスけど……用心するっスよ」

 成実さんは心配しながらも、頼みを了承してくれる。だとすれば、後は行動するだけ。初対面の人と一緒というのは緊張するけれど、自分から歩みを進めた。

 昨日まで入院していた病院は、今日来ても何一つ変わっていない。でもこの場所が私の檻だったのだと考えれば、どこか息苦しい。病棟へ向かうエレベーターの中、私は溜め息が止まらなかった。

 病室へ向かう廊下に、私と成実さんの足音が響く。そして昨日まで寝泊まりしていた病室に入ると、私のベッドの向かいを覗く。

 カーテンは、開いていた。真っ白なシーツの上には、薄い布団がたたまれている。そこに人が入院している痕跡は、なかった。
 
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