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純の恋人
第8章 不信
カナと話をする別件。なんとなくだけれど、予想がつく。人気のバンドメンバーが、仮面を外したら女じゃなくて男だった、なんて話題になるのは間違いない。カナに会わせるのはサービス、なんて言っていたけれど、ビジネスチャンスを見逃さなかっただけだろう。
「若、アンジュさん、呼ばれて飛び出て成実参上っス!」
外で待機していた成実さんに、私は外へ出るよう促される。若頭の店で働いているカナにとって、これから提示される話は私以上に選択肢のないものだろう。でも、それはまた別の話。私はとにかく、前を見なくちゃいけない。
「成実、純さんをお願いしますよ。明日は僕も忙しくて来られませんから、宮城と話す際はあなたが責任を持って守りなさい」
「言われなくとも、マイ神であるアンジュのためなら全力前進っス!」
成実さんは若頭へ敬礼すると、私に満面の笑みを浮かべる。極道とは程遠い明るさは、私を安心させた。
一度掴めば、繋がり始めた真実の糸はどんどん手繰り寄せられる。細く、長い糸でも、まだ切れる様子はない。けれど糸の先に何が括りつけられているのか。私はまだ、それを知らずにいた。