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純の恋人
第9章 彼の本性
成実さんが異変に気付いたのは、次の日のお昼頃、宮城さんの働くという現場へ向かうために部屋を出た直後だった。
「……アンジュさん」
成実さんは突然私の腰を引き寄せ、耳元で囁く。何事かと一瞬うろたえたけれど、低く警戒した声のトーンに、騒いだ心臓が冷たくなった。
「驚かないで、普通の顔で聞いてくださいっス。誰かが、後を尾けてるっス。車に乗ったら撒くっスから、今は何も知らない振りで」
思わず辺りを見回そうとすれば、成実さんは私の顎を取り、顔を近付けてくる。私の動揺を悟られないために演技しているんだろうけど、唇が触れそうな距離は、顔から火が出るほど恥ずかしい。時間にすればほんの数秒なんだろうけれど、何十分も経った気がした。
「気持ちは分かるっスけど、今は我慢して普通に振る舞うっス。尾行に気付かれたと知れたら、強硬手段に出るかもしれないっスから」
「は、はい」
成実さんは恋人を装って、腰が抜けてしまいそうな私を車まで支える。甘いようで、重い空気。車に乗るまで、私は何も喋れなかった。
車に乗り込むと、成実さんは明るい声と共に、私に笑みを見せる。