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純の恋人
第10章 国重一の後悔
俺が警察官になって学んだのは、この世に勧善懲悪なんかないという世知辛い事実だった。事件が起きても、捜査を面倒くさがっておざなりに済ませる上司達。キャリアアップしか頭にない同僚。痴話喧嘩の後始末を丸投げする自称被害者。本当に警察の力を必要としている人間へ手が届かない事も、日常として受け止めなければならなかった。
「――捜査を、中止?」
「良かったじゃないか、国重君。昨日も徹夜で容疑者を三人も吐かせたんだろう? 非番を潰した詫びだ、今日はゆっくり休みなさい」
「冗談じゃない、人が拉致されてるんです! 目撃者も多数いるのに、なぜ中止なんですか」
吉川 純。その女は、俺にとって一生忘れられない存在だ。俺のせいで取り返しのつかない傷を受けてしまった女は、俺の目の前で暴力団に拉致されてしまった。おそらく、今あいつは、犯人の元で想像もしたくない酷い目に遭っている。一秒でも早く救ってやらなきゃいけないのに、上層部が下した判断は、轢き逃げの時と同じで正義からかけ離れたものだった。
「国重君、君は彼女が何者かに拉致されたと言っているが、それが間違いなんだ」