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純の恋人
第10章 国重一の後悔
「はあ? 俺は直に見たんです、あいつが攫われる瞬間を!」
「被害者――いや、吉川のお嬢さんは、君が暴力団と起こした喧嘩を恐れ、友人の車で現場から去ったんだ。可哀想に、か弱い女性がそんな現場に遭遇すれば、恐怖で逃げたくもなるだろう。君が見たのは、その時の彼女だ」
「じゃあ、その後彼女が行方不明になっている事実はどうするんですか。親しい友人や家族も、現在の彼女の行方を知らないんです」
「ああ、国重君聞いてなかったのかい? 今彼女は、土居記念病院にいるよ」
さらりと上司は話すが、そんな事は初耳だ。あいつの姉である吉川 真子は、今にも倒れそうなほど狼狽しているというのに。
「彼女は君の起こした喧嘩に精神的ショックを受けて、友人に病院へ連れて行ってもらったそうだよ。様子見で二、三日入院はするが、すぐ家に帰れるそうだ」
なにが入院だ。病院はクロだ、犯人の指示で運ばれ、檻に入れられたんだろう。今の俺に、揉み消しを謀る警察内部を変える力はない。それが本当なら、自分で確かめるしかない。俺が切り上げようとすれば、上司は苦い顔をして付け足した。