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純の恋人
第10章 国重一の後悔
「――吉行、殴るぞ」
「怖い怖い。じゃ後は頼みましたよ」
俺が睨んでも構わず、吉行は一人で部屋を出て行く。俺は居心地の悪さに舌打ちすると、純をベッドに座らせた。
「……吉川真子に連絡する。今頃は松永の当選で忙しいだろうが、妹が助かったと知れば喜ぶだろう」
吉川真子は松永の事務所の職員だ。だが松永自身も、話を聞けば快く吉川真子を送り出すだろう。たった一人の姉妹なのだから。
「国重さんは、どこまでも国重さんですね」
純は俺を見上げ、苦笑いする。何が言いたいのか意味が分からないが、電話しなきゃならないのに服の裾を掴まれては困る。
「ちょっと待ってろ、ここで電話する訳にはいかないだろ」
「……国重さん。もう少しだけ、そばにいてもらってもいいですか? もう少し落ち着いたら、頑張りますから」
服の裾を掴む手は、震えている。土居本人がいなくなっても、すぐに安心できないのは当たり前だ。まだここは純を貶めた人間の巣窟で、どこから報復が来るのかも分からないんだから。俺は自分の気の利かなさに、溜め息を漏らした。