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純の恋人
第11章 過去から、未来へ
 






 晴久さんの逮捕は、新聞やテレビでは事務的に少し報道されただけで、世間では話題にならず消えていた。病院関係者の中ではそれなりに騒ぎになったようだけれど、土居記念病院も、変わらず今も開いている。私の知らない裏側は、静かに晴久さんを切り捨て、暗い糸で繋がり続けているのだろう。

 落選した父は、今まで関わりもなかった松永さんに「未来の息子へ席を譲った」と言い残し、ちゃっかり話題の人としてマスコミに顔を売っている。別に松永さんが父の基盤を引き継いだ訳でもないのに。松永さんがそれを認め円満な顔をしているのは、姉と私のため。松永さんには、本当に感謝しなければならない。

「――さん、アンジュさん? これ、若から差し入れっス。精をつけて練習して、復帰しましょう、って伝えてくれって言ってたっスよ」

「な、成実さん。ありがとうございます」

 呆けていたところに声を掛けられて、私はついどもってしまう。なんだか高級そうな包み紙の箱を受け取ると、ひとまず机に置いた。

 今、私はボイストレーニングのスタジオに通っている。
 
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