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獣日和
第1章 はじまり
「えっ……? 今何て言ったの……? 樹、桜太……」
一瞬、聞き間違えかと思った。
今日平々凡々に二十歳の誕生日を迎え、二人の幼馴染から誕生日を祝ってあげると彼等のアパートへ呼び出された。
買ってあったケーキをリビングで食べ、それぞれからプレゼントを貰い、こんなに幸せな日はないと思った……矢先。
目の前に立つ二人から突然掌サイズの箱を差し出されると、ふみは愕然とする。
それぞれ開けられた箱には、ドラマで見たことのあるシチュエーションを連想させるような指輪が入れられており、婚約指輪だということは一目瞭然だった。
「ふみ、俺と結婚しよう」
「ふみちゃん、俺の奥さんになって?」
仕事帰りのためスーツ姿のままだった二人が、ソファの前に立ち尽くすふみを見てニコッと微笑む。
ネクタイはしっかり締めたまま、酔いをみせず誠実な印象。
驚き過ぎて箱を受け取ろうとしないふみを、優しく見守っていた。
「……どうしたの? 二人共……」
彼ら、双子の黒羽 樹(くろは いつき)と桜太(おうた)とは保育園の頃から仲が良く、同い年で実家が隣同士だった事もあり、二十年間殆どふみは彼等と一緒に過ごした。
活発で運動神経抜群なしっかり者の樹は兄のような存在。
おっとりしていて少し体が弱く、甘えん坊な桜太は弟のような存在。
そんな二人から恋愛対象として見られていたという事が、プロポーズをされて一番不思議でしょうがなかった。
「俺達二人共、ずっとふみが好きだったんだ。なあ? 桜太」
「そうだよ、ふみちゃん。俺達の夢はね、子供の頃からずっとふみちゃんと結婚する事だったんだよ」
二卵性で顔は違うのに、二人共好きになった相手は私だったの……?
ふみは二人の話を聞きながら、だんだんと慌て始める。
「待ってよ、二人共。急にそんな事言われても……」
差し出されている指輪から目を逸らすと、そのまま二人から後ずさった。