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逆襲のフィメス
第16章 秘密の夜の姫
「私は……女帝よりも皇帝になりたいのです」

 ンニスがポツリと言った。

 女帝よりも皇帝に。その意味が一瞬わからず、カイオラルはンニスを見つめ返した。だが、彼女の潤んだ瞳を見てたちどころに理解する。

 フィメス皇帝。
 ローメールでも噂となっていたが、女帝エニミスとの婚姻は他の国が考えるようなふつうのものではない。性奴たるべき「男」の象徴として扱われるみじめな存在。

 そうなりたい……と。
 カイオラルの驚きに見張った目の中で、月明かりに青白く照らされたンニスの顔が頷いた。

 異性を奴隷のように屈従させたいという願望を持つ者はそれが男であれ女であれ、ローメールにも一定数が存在する。そしてまた、自分が奴隷のように異性に屈従したいという者も。

 なるほど、男を屈従させることしかできない国の統治者が、そのような倒錯を性癖とする場合、その心の内はいかばかりものだろうか。

 辱められたい、虐げられたい、そんな願望と欲求は永遠に満たされることはないばかりか、その逆を自分に強い、国民の範として示さねばならぬのである。

 それは地獄であり、絶望なのではないか。
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