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愚者の唇
第1章 愚者の唇
「ひとりで寂しく食えば。
お前のは、始末書がプレゼントでいいよな」
「ありがとうございます…」
嬉しい。格別の差別まで、おまけでつけてくれた。
彼は、私の誕生日をどこで知ったのだろう。
奥さまと浮気相手が1日違いの誕生日とは、妙な偶然があるものだ。
私がそう言ったら、何食わぬ顔をして彼は答えた。
「好きなんだ。乙女座の女」
なぜ。
なにかもうひとつ、薄気味悪い疑問を問いそびれたような気もする。
でも、また聞いている暇はないようだ。
終わりなき雷鳴のなか、車の到着を告げる短いクラクションが耳に届いた。
さっきまで彼がいた場所で私は膝を抱え、裸足の指先を見ていた。
無言で立ち去るとばかり思っていた彼の私の名を呼ぶ声がして、条件反射で飛び起きた。
こんな日でも、いつもの儀式が遂行されるらしい。
玄関。目を伏せた彼は自嘲を浮かべた唇で、うやうやしく私の手の甲に口付けた。
そしてろくでもなくも揺らぎない、私への崇拝と忠誠を誓う。
「おやすみなさい、『ご主人様』」
『愚者の唇』了.