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ただ一つの一対
第5章 花園の鍵は
 
「……そうですね、こんな話、あまりに無粋でした。今は、このままで」

 溢れる白濁を隠すように、菊は自身を再び菖蒲の中に突き入れる。時も、変えられない現実も全て掻き回し、忘れるまで抱き合った。







 平日は隣県、休日は菊の家。菖蒲の生活は、今までと変わらない。だが剣道の稽古が終わった後は、今までと違い恋人の時間が待っている。

「菖蒲、こちらとそちらの帽子、どちらがいいですか?」

「ちょっと待って、どっちも可愛いけど、値段が」

「大会優勝のお祝いなんですから、気を遣う必要はありません。よし、ではどちらも買いましょう」

「えっ!? でもあたし、叔父さんがいてくれるだけで、充分ごほうびだけどな……」

 一見すれば叔父と姪だが、指を絡めるように繋いだ手が胸を熱くする。誰にも話す事は出来ないが、穏やかな時の中、静かに愛情は育まれる。

 だが、見ない振りをしても、闇が消える訳ではない。菖蒲という光に目が眩んでいる間に、影は濃くなっていく。ひと月、ふた月と秋が深まり、冬が迫る頃。少しずつ歪んでいた手が、暗闇から伸びようとしていた。
 
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