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ただ一つの一対
第6章 夢の終わり
 






 海で待っている。宗一郎が残した言葉で美和子が頭に浮かんだのは、初めて宗一郎と出会った時に向かった海岸だった。電車の中はもう人もまばらだ。まだ少女である美和子が出歩いていたら、すぐ補導されてしまう時間である。美和子は追っ手だけでなく、周り全てを警戒しなくてはならなかった。

 暗く染まった雲が夜空を覆い、星を隠す。先程まで見えていた大きな月もその向こうだろうかと、美和子は窓から空を見上げながら思う。小さな窓から見える景色からでは、何も見つけられなかった。

 目的地へ向かうため、電車を降りた後美和子は無心で走り続ける。風が強く吹き、美和子の気付かない内に雲を吹き飛ばしていた。

 近付く潮の香り。段々大きくなる波の音。夜に包まれた真っ黒な水平線が見えてくる。砂に足を取られそうになっても、美和子は止まらず人影を探した。

「宗一郎様!」

 美和子は名を呼ぶが、答える声はない。耳を澄ましても、聞こえるのは波と、走り続けて上がった自分の息だけ。隠れられそうな場所を覗いてみても、宗一郎の姿はない。

 ふと美和子は、空を見上げる。雲が去った今も、どこへ隠れたのか、空に月はなかった。
 
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