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ただ一つの一対
第6章 夢の終わり
 
 追っ手を撒くため、遠回りをしているのかもしれない。そう考えて、美和子は波打ち際で宗一郎を待つ。だが潮風が体を冷やし、体温をすっかり奪う頃になっても、宗一郎の姿は見えなかった。

「――見つけたぞ、このアマが」

 代わりに現れたのは、美和子が撃ったはずの則宗と、その取り巻きだった。

「どうして、ここに」

 則宗を殺してしまっては、組員を必要以上に逆上させてしまう。美和子はそう考え、急所ではなく足を撃った。それが災いだったのか、則宗は応急処置だけで立ち上がり、怒りに身を任せ追ってきたのだ。

「可愛がってやった恩も忘れて、このクズがっ! 宗一郎はどこだ!!」

 美和子が動揺している内に、取り巻きの男達は美和子を囲んでいた。不意打ちならともかく、一人で大人数の男から逃げる術を美和子は持たない。手足を掴まれ、則宗の前へと差し出されてしまった。

 則宗は美和子の頬を、力一杯叩く。白い肌は悲痛な音を立て、赤く腫れる。

「楽に死ねると思うな!! この俺に刃向かうとどうなるか、思い知らせてやる!!」

 そこからの記憶は、美和子自身も朧気である。だがその後一年は治らなかった全身の傷を考えれば、死んだ方が楽な罰を受けたのだろう。
 
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