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ただ一つの一対
第6章 夢の終わり
 
 菊は黙ったまま目を逸らし、両腕を前に組む。だが、左月は現実から逸らさせまいと、さらに続けた。

「坊ちゃん、本気なら本気で、落とし前ってものがありますでしょう」

「……分かってますよ、それくらい」

「ならば、どうなさるおつもりで。戸籍を入れられない分を、どう埋めます? 姫を妻として迎えるなら、妻の勤めというものもあります。姫はそれを受け止められますか?」

 共にある事を望むなら、避けられない己の事情。ただでさえ血縁という問題もあるのに、いつまでも先延ばしには出来なかった。

「分かっていると言っているでしょう! ただ……少し、しがらみのない付き合いというものを体験させてあげたかっただけです」

 何も知らない菖蒲が、受け入れる保証などどこにもない。騙されたと罵られても、文句は言えない状況である。

 菊の心が描く菖蒲が、嘘を吐かれたと怒鳴り、涙を流すと、背中に寒いものが走る。想像だけで気分が鬱になるのに、どう転ぶか分からない現実で一歩踏み出すのはなおさら恐ろしい事だった。

 冬はまだ始まったばかりで、菊はまだ縮んでいる。だが寒さを感じているのは、菊一人ではなかった。
 
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