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ただ一つの一対
第6章 夢の終わり
秋頃からずっと、菊はこの調子で他の女性を拒んでいた。長い間熱を上げていた『若紫』を手に入れた時ですら若頭の本分を忘れなかったはずなのに、今の菊は全く愛人達への配慮がない。頑なな菊に頭を抱えていると、後ろからしわがれた手が肩を叩いた。
「怒鳴り声が、部屋の外まで聞こえていますぞ」
「……左月様」
菊の腹心である左月の登場に、片倉は複雑そうな表情を浮かべる。この老人は片倉の実父ではあるが、共に暮らしていた訳ではない。どんな距離感で話せばいいのか、片倉は今も分からずにいたのだ。
「坊ちゃんは色恋沙汰に関しちゃ、まだ中学生と一緒です。見守ってやれればいいんですよ」
「さすが、左月はよく話が分かりますね。それでこそ僕の部下です」
多少侮られた見方にも関わらず、菊は機嫌良く頷く。中学生の年齢などとっくに越えたはずの男の振る舞いに、片倉はまた溜め息を漏らした。
だが左月は、次に片倉以上の諫言をする。それを聞いた菊が、思わず黙ってしまう程の。
「だが坊ちゃん。そんなに入れ上げる相手に、いつまでも極道だって事を隠してはおけないでしょう?」