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ただ一つの一対
第7章 彼女の優しさ
「それだけ冗談が言えるなら大丈夫でしょう。アルコールを飲んだ後ですから、薬はまだ控えてください。これに懲りたら、もう無茶はよしてくださいね」
言い返す元気がないのか、菊は目を閉じたまま動かない。片倉はそんな菊の顔を覗くと、布団越しに菊の胸へ手を当てた。
「今なら、簡単に若を殺してしまえますね」
「……殺したいなら、好きにすればいいでしょう。楽しい事なんか何一つない人生です、命を惜しむ理由もない」
「若……」
ひねくれた言葉を止めるように、片倉は菊に口付ける。かき乱すのではなく落ち着かせるような穏やかなキスは、ささくれた気分を眠りに導く。しばらくは菊も舌を絡ませ熱を交わしていたが、段々と動きは散漫となり、寝息と共に止まった。
「……あなたは、すっかり腑抜けてしまった」
片倉は立ち上がると、部屋から出ていく。その瞳に、菊を心配し気遣う色はなかった。
車へ乗り込みエンジンをかけると、片倉は時計を確認する。まだ小学生が寝るにも早い時間、クリスマスイブはまだ終わりそうもない。片倉はハンドルを強く握ると、引き返す事の出来ない道へと走り出した。