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ただ一つの一対
第1章 失恋した男
溢れる想いは蜜として絶え間なく漏れ、ふわりと体が浮くような感覚に襲われる。生きがいい魚のようにびくりと跳ねた後、感じるのは虚脱感だった。
「ぁ……はぁっ……」
所詮、これは自慰行為。ソファが手を伸ばし、余韻に浸る体を優しく抱き留める事はない。もっとも、今頭を支配する巧みな男本人も、達した後に片倉をわざわざ抱き締めた事などないのだが。荒い吐息は行き場を失って溶け、時間は濡れた秘所を乾かした。
「あの人が、こんな所で抱くから……」
惨めな行為への後悔を漏らすと、片倉はそのままソファに横たわる。菊と菖蒲の戻る昼までは、まだまだ時間が残っている。促されるまま、片倉は眠気に瞼を閉じた。
少女は、夢を見る。一見すれば豪華な和風の屋敷であるここが、極道の巣である事は知っている。しかし内部に組み込まれた自分に、危険はないものだと思い込んでいた。
「美和子!」
そしてこの屋敷に住む、組長として成長を期待される男。空手では敵のない爽やかな少年・一文字 宗一郎の存在も、少女の隙を生んでいた。
幼なじみである二人が惹かれ合うのは、運命である。しかし手を繋いでも、二人は一対ではなかった。