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ただ一つの一対
第2章 少女は夢を見る
結局その一本で逃げ切られ、試合は終了する。面を外した菊は道場主を不満げに睨むと、文句をこぼした。
「胴は他に比べて決まりにくい……とか言って、先生が対策を適当にしていたから僕が負けたんです」
「そんなクレーム入れられてもねぇ。事実剣道で一番決まるのは小手だし、まずはそこから対策取る方が実戦的だろ。これも経験さ」
「叔父さん、でも前回より良くなってたよ。あたしかなり焦ったもん」
菖蒲も面を外しフォローに入れば、菊はすぐ笑みを浮かべる。菖蒲の頭を撫で、満足そうに頷いた。
「菖蒲も腕を上げましたね。僕が想定していた振りよりも早かったです。次の大会が楽しみですね」
「ねぇ叔父さん、叔父さんは応援に来てくれる? お父さんとお母さんも来るって言ってたし、久々に会ったらどう?」
「お兄様が? 珍しいですね、菖蒲が剣道に夢中なのを、あまり快く思っていないのでしょう?」
「うん……だから、あたしがどれだけ本気でやってるか、見てもらいたくて。お父さんはすぐ女の子らしくしろとか、怪我したら危ないとか言うけど、見れば分かってくれると思うんだ」