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ただ一つの一対
第2章 少女は夢を見る
「そんな事を言ったと姫様が知ったら、泣いてしまいますよ。今のうちに、笑顔の練習をしてください」
「その言葉、そっくりそのまま返しますよ。寝ている間、大分うなされていましたが、悪い夢でも見ていたんですか?」
その問いかけに、片倉は緩んだ口が引きつる。肩に重みがのし掛かるが、質問に答えない訳にもいかない。
「……昔の夢を、見ていました」
仕方なく正直に話すと、菊は立ち上がり、片倉の前に座り直す。そして下ろしたままの片倉の髪を掻き上げると、唇が触れるくらいに顔を近付ける。
「今日は本当にあなたらしくないですね。過ぎてしまった時など、振り返っても実にはならないでしょうに」
「今の若だって、過去に捕らわれているのでは? あの娘に慰めてもらわなければならないくらいに」
「つまり、同じ穴の狢だと?」
「……私も、お慰めしましょうか?」
片倉の腕が菊の首に絡むと、体に掛かっていた毛布がはだける。露わになった豊かな胸は、ただの男を包むには充分すぎる器だった。
「慰めてほしいのは、あなたの方でしょう?」
だが、相手は菊。簡単に埋もれる相手ではなかった。