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ただ一つの一対
第3章 ただ一つの欠陥
「叔父さんがいないなら、誰が来ても同じだもん……」
「そんな事を言ったら、成実が泣いてしまいますよ? 可愛い女性と話す機会のない寂しい男ですから、面倒を見てやってください」
菊は菖蒲の頭を撫でてなだめると、スーツに着替えて出ていってしまう。一人残された菖蒲は、頬を膨らませソファに沈み込んだ。
「叔父さんのバカ……」
まだ、成実が姿を表す気配はない。時計の無機質な音は無意味に菖蒲を焦らせ、普段では考えつかない思考を呼び覚ました。
(もしかして今って、叔父さんの謎を解くチャンスじゃない?)
菖蒲は菊が普段何をしているのか、ほとんど知らない。会社を経営している事は知っているが、それが何の会社かは分からない。趣味で道場に通っている事は知っていても、それ以外の趣味は分からなかった。
人の家を家主がいない間に探るなど、本来は礼儀知らずである。だが一人で抱える重圧は、判断を鈍らせていた。
菖蒲は立ち上がり、音を立てないように菊の寝室へ忍び込む。ほとんど立ち寄った事のないそこは、整理されたモノトーンな部屋だった。