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ただ一つの一対
第3章 ただ一つの欠陥
「菖蒲?」
「な、なんでもない。ちょっと料理が辛いだけ」
「……そうですか」
いつもと変わらないようで、どこかぎこちない空気。そして気まずい昼食の後、さらに菖蒲は落ち込む事になる。
「申し訳ありません、菖蒲。実は会社の方で、どうしても僕が出ないと収まらないトラブルがあったようなんです。夜には戻りますから、留守番をお願いします」
「え……うん、仕事ならしょうがないよ。あたしは大丈夫」
やけに慌ただしく携帯を弄っていると思えば、菊は片付けをしている菖蒲へ声を掛けた。菊が菖蒲との週末より、仕事を優先したのは今日が初めてである。今までにはない行動に、菖蒲は動揺を隠しきれず声が裏返ってしまった。
「本当にすいません。代わりに、僕が戻るまで成実(なるみ)を置いていきますから」
「成実って、叔父さんの部下の?」
それは片倉ほど頻繁ではないが、菖蒲も顔を合わせた事がある人物の名だ。まだ二十代前半、菊の下について間もない青年で、菊とは正反対の人間である。
「外へ用事がある時は、用心棒に使ってください。あれは少々気のつかないところもありますが、真っ直ぐな男です。役に立つでしょう」