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ただ一つの一対
第4章 花園への道
「どうぞどうぞ、今日はどうせそう言い出すと思っていたから」
「ありがとうございます、お義姉様。明日の夕方までには送り帰します」
宗一郎はまた渋い顔をしていたが、おそらく予想していたのだろう。特に反論する事はなく、頷いた。
「菖蒲、くれぐれも迷惑を掛けるんじゃないぞ」
「もう、お父さんはいつもそればっかり。迷惑なんて掛けてないもん!」
「そうですよお兄様、菖蒲はとても良い子に育っています。お手伝いもよくしてくれますし、普段の躾がよく窺えます」
すると照美はころころ笑い、菊に軽口を叩く。
「躾だなんて、とんでもない。この子普段はなんにもしないんだから。叔父さんが好きだから、猫被ってるだけで」
「お、お母さん!!」
「うちでも叔父さん家でしてくれるように、お手伝いしてくれたらいいのに。そしたらお母さん助かるわー」
すっかりへの字口になってしまった菖蒲に、菊は苦笑いを浮かべる。
「それじゃあ菖蒲、着替え終わったら僕の車まで来てください。今日はお祝いです、寿司でも焼き肉でも、好きなものを食べに行きましょう」
背中を押して促す菊は、平和な家族に溶け込む叔父だ。夢の終わりが近付いていると知りながらも、菊はその心地良さに浸っていた。