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ただ一つの一対
第4章 花園への道
(夢は、いずれ覚めるもの。僕の夢も……終わる時が、来たのかもしれませんね)
決勝戦で、共に手に汗を握り応援した事。菖蒲がいなければ、一時でも兄と同じ気持ちを共有するなど不可能だっただろう。菊はそのまま背を向け、立ち去ろうと足を進める。
「叔父さん!」
だが夢のまま消える事は、菖蒲自身が許さなかった。菖蒲は菊のスーツの裾を掴むと、菊を見上げる。
「あたし、明日は学校休みだし……泊まっていってもいい?」
菖蒲の意識が菊に向けば、夢の覚めた宗一郎は再び菊に怯えた目を向ける。だが同時に菊を見つめる菖蒲の視線からも、目を離す事が出来なかった。
「それは、優勝した時のお願いですか?」
「それとは別だけど、駄目?」
捨てられた子犬のような目を向けられれば、菊の頭に宗一郎の影は消えてしまう。引きずられるように頷くと、恐る恐る宗一郎に申し出た。
「お兄様、よろしいですか? せっかく優勝したんです、お祝いに、何かしてあげたいのですが」
すると宗一郎より先に、宗一郎の妻である照美が口を開く。彼女はどうやら宗一郎から何も聞かされていないようで、元から菊に警戒はない女性だった。