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ただ一つの一対
第5章 花園の鍵は
菖蒲は通路のガラス窓に映った自身の姿を眺めながら、眉をひそめる。変わり映えのないポニーテールに、色気のないジャージとカバン。家に帰るまで大会、学校へ迷惑を掛けないためにも仕方ないのだが、洗練された菊の隣に並ぶには、あまりに未熟すぎる。どんなに手を伸ばしても、結局ついて回る制限。玄関へ向かう足は、あまり進んでいなかった。
「菖蒲」
「ひぃえぇあっ!! お、叔父さん!?」
すると背後から声を掛けられ、菖蒲は飛び上がる。あまりの驚きように、思わず菊は目を丸くしてしまった。
「な、なんで中にいるの!? 車で待ってるんじゃ」
「遅いから迎えに来たんです。もう、皆出ていってしまいましたよ?」
確かに、もう出場者の姿は見当たらない。通路の奥、事務室の方はまだ大会の責任者である大人達の気配があるが、すっかり辺りは静まり返っていた。
「こんな所で呆けて、何をしていたんですか? まだ動き足りないなら、少し道場を借りて練習しましょうか」
「え、いや今日はもういいよ。そうじゃなくて……あたし、まだ子どもなんだなって思って」