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ガラスの靴がはけなくても
第8章 眠りたくない夜
リビングキッチンは誰が見てもふつうと言うか、シンプルにコーディネートしてある。
だけど、寝室は普段誰かが入ることは少ないから私の趣味が思う存分に出ていて。
「すごいな。おとぎ話に出てきそう」
部長がそういうのも無理はない。
八畳ほどの狭さだけれど、ダブルベットは天外つきのフリフリ。
小さなシャンデリア風の電気。
アンティーク調にまとめたカーテン。
今年の冬のボーナスで模様替えしたばかりだ。
「いい歳になってもお姫様みたいなのが好きなんです。引きます?こういうの」
男の人にはなかなか分からないだろうし、いくら好みであっても夢見がち過ぎるのは重々承知だ。
「引く?どうして?」
「きゃっ…!」
部長に抱えられて…、所謂お姫様だっこでベットに運ばれ優しく押し倒される。
「正直、俺の趣味ではないけど。お姫様みたいなのが好きだって言う藤野が可愛くて仕方ない」
髪を撫でながら優しい瞳で見つめられて、
「大事に大事にするから。俺の。俺だけのお姫様になって」
私は完全に部長に心臓を射ぬかれた。