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彼は「安産」だったらしい。
第1章 Maonaサンたら大胆なのね★
 二十歳すぎてのことだから、成人っていうには遅いかもしれない。
 でも、本当に好きな相手とじゃなきゃこんな危ない儀式乗り越えられそうになかったから、僕はこれでよかったんだと思ってる。
「きれいだ、手だけでもいけるんじゃないか?」と社長によく褒められる手で、大きくなってきたおなかを撫でた。これを生み出したら、僕は大人になれる。また、仕事にも戻れる。
それが楽しみで、もともとあがりぎみな口角がさらにきゅっと上がる。
 妊娠してから、おなかだけがサイズ合わなくなって、好きな服を着られなくなった。
 コイビトでマネージャーのフユキは「それでも可愛いよ」って言ってくれるけど。
 早くまた、スリムな体でロックな服を着こなして、雑誌の仕事に戻りたい。僕はモデル以外の何ものでもないから。
「レツヤ、入るぞ」
 事務所の控室で考え事していたら、外から社長の声がした。
「あ、はい」
 マキセ社長は、僕のことがお気に入りらしくて、秘密を知っても嫌いにならないでいてくれる。
「よぉ、プリン買ってきたんだけど、食うよな」
「わぁ、ありがとうございます!」
 僕は甘いものが大好きだ。つわりも治まったし、細いけどわりとたくさん食べる。
 淡いキャラメル色の髪も、マスカットみたいな瞳も、白い肌も、おいしいものでできているのだ。
「レツヤ、もうじき生まれそうだな」
 僕の向かいに座って、いっしょにプリンを食べながら社長が言った。
「はい……」
 僕は急に少し、不安を覚える。
 僕たちアークル一族は、出産を経て成人する特殊な一族で、男でも普通に妊娠する。男性器と肛門の間に、産道になる場所があるから。
 心を決めた相手にここを貫かれて、精液を注いでもらって、妊娠するのだ。
 ここは性感帯じゃないから痛いだけだし、出産するのも相当つらいけど。
「僕、ぶじにやれるでしょうか」
 思わず弱音を吐いてしまった。
 だって、経験のないことだし、痛いのはとにかく苦手だし、知識もあまりないし。
「大丈夫、フユキが立ち会うんだろ? アイツがいればオマエを死なせはしないさ」
 社長は、フユキをとても頼りにしている。
 僕だって恋人なんだから、彼を信じなくてどうするのだろう。
 でもやっぱり怖いもんは怖い……。
 目を伏せていたら、社長がふいに、鞄からDVDを出した。
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