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第5章 fake

有難いね。
こんな日は一人になりたいさ。

こういう空間を与えてくれた詩織に感謝しないとな。

エリート会社員の夫を演じていれば、それに満足してくれる単純さ。

嫁の実家という、金の成る木。

人は、金次第で何とでもなるという事を教えて貰った。

取り繕う事すら厭わない。

夫婦の愛情とか営みとかがなくなっても、
離婚して、全てを無にする事なんて考えたりしない。

甘い汁を啜った後に、現実の苦味を知りたい奴なんて、多分、居ないだろう。

面白みがない日常だって、物分かりの良い人を演じる事で、波風立たずに丸く収まると思えば、そういう顔も、いつの間にか出来上がっくる。

人はさ、贅沢を一度覚えたら、それを捨てるなんて事は出来ないのさ。

捨てる方が怖いんだ。

いいとこ取りの俺は、本当に狡いな。


でもさ、不倫をした時点で、皆、同じ穴のムジナなのさ。
どんな理由があろうとも、悪い事は悪い。


踏み入れた限り、嘘を塗り重ねていく事に関しては、平等に同じ罪を犯している。




ポケットからUSBを取り出し、パソコンを開いた。
立ち上がるまでの時間がとても長く感じた。