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痴漢脳小説 ~秋津高校サッカー部~
第3章 蘇れ、サッカー部!
「実際どうなんや。ヒデ、やれるんか?」
「僕は…」

 中井さん。美緒ちゃんが小さく呟いた。

「僕は…」

 ヒデは苦しげに声を絞り出す。
 
 今日の練習にヒデは来なかった。今まで率先して引っ張ってくれたヒデを欠いて俺達の練習もグダグダだった。

 今も顔色が悪い。

 エースとして期待されながらも自分の不調のせいで負けたことへの責任。隠していた秘密を話していたこと。

 いろんなことがヒデを苦しめている。

 それでもヒデは今、ここに来てくれている。
 どうにかしたいといちばん願っているのは、もしかしたらヒデ自身かもしれない。

「…ごめん、今日は帰るよ」

 ヒデは席を立った。追いかける者は誰もいなかった。

 追いかけられなかった。

 みんな昨日の負けをヒデのせいにしてしまいたかった。この痴漢野郎と罵れれば楽だった。
 
 でも出来なかった。

 だって、あんなに苦しそうな顔をしてるんだぜ。

 それに、ヒデに頼りっぱなしの情けない自分自身にも腹を立てている。
 試合でもヒデの力になれず、大きな悩みを抱えている今も、何もしてやれない。

 みんな戸惑っているんだ。エースの予想外の性癖に。

 どうしていいか分らなかった。だから動けなかった。
 つまり黙って見送るしか出来なかった。

 ヒデのいたテーブルに、手を付けられなかった料理がそのまま残っていた。

「私、行きます」

 静かに立ち上がったのは美緒ちゃん。

 情けない。女の子に頼らなければいけないなんて。
 俺はキャプテンなのに。ヒデは親友なのに。

 そんな俺の気持ちが聞こえたかのように、美緒ちゃんはポニーテールを揺らして振り向いた。
 そしてニッコリと笑った。

「大丈夫です。中井さんは私が連れ戻します。皆さんは練習試合に向けて作戦を練っていて下さい」
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