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面影
第2章 仮面




『棗〜!後でこの図面頼む〜。』


『はい!了解です。』




自分のデスクの端に置かれた図面に
チラリと目をやり、心の中でチッと
舌打ちをする。
PCの作りかけの書類の続きを
カタカタと打ち込んでいると、
コーヒーのいい香りがしてきた。

『笹原サン。お疲れ様デス。』

よく聞く声に顔を上げると、
コーヒーを手に持った
にっこりと微笑む麗の姿。

『麗。アリガト。
てかなんでココいんの?』

『むっ。同じ会社だからいても
いーでしょ!書類もってきたら
誰かさんがPC睨みつけてたから
コーヒー淹れてあげたの!』

『フッ。それはそれは、
アリガトウゴザイマス。』


ぷっと膨れた麗の顔が面白くて
肩の力も一気に抜ける。


『棗。あんまり、無理しないで?』

『ん。分かってる。』

『じゃあ私、帰るね。』

『おう。』



容姿端麗な麗は、どこにいても
昔から周りの視線を集める。
高校こそ違ったものの、
後はずっと一緒で、
まさかの就職先も同じ。
入社式で麗の姿を見つけた時は、
運命じゃないかと錯覚したほど。


俺も社交的でどちらかと言うと、
ツレも多い人間なので、
麗と一緒にいると必然的に…

『やっぱり棗さんと早瀬さんって
付き合ってるんスか?』

『だ〜か〜ら〜
付き合ってねぇ。幼馴染だっての。』

自分のオフィスに戻る、
麗の後ろ姿を見ながら隣のデスクの
後輩、旭(アサヒ)が聞いてくる。



『え〜怪し〜。早瀬さん、
棗さん以外にあんな柔らかいカオ、
しませんよ?』

『知らねぇよ!幼馴染だからだろ。
はやく仕事やれ。』

『は〜い。』


旭だけじゃない。
これまで、小学校も中学校も大学も。
麗が隣にいる間は聞かれ続けた。
もうこれは、麗が嫁に行くまで
聞かれ続けることだろう。



『早瀬麗(ハヤセレイ)、
ほんと名前の通りの人っスよね。
早瀬さんて。』

『ん。そだな〜。』

続きを打ちながら、適当に相槌を打つ。

『笹原棗(ササハラナツメ)、
やはり本命は早瀬麗か。』

…カタ。PCを打つ手が止まる。

『棗さん。またフッたでしょ?』

『…誰から聞いたんだよ。』


そして俺が女をフると、決まって
やっぱり麗が本命だと周りは噂する。
この流れも、麗が嫁に行くか
俺が結婚するまで続くことだろう。




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