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面影
第2章 仮面
『はぁ…聡太…』
『ん?』
息が上がって、上手く話せない私を
よそに、聡太はテキパキと慣れた手つきで
椅子に縛り付けていた紐をほどき、
乱れた私の服を直していく。
『聡太は…今日…帰るの?』
『よし元通りっ!と。
あぁ、マンション来る?』
『うん!行く!!』
『ん。じゃあ先行くわ。
またね、早瀬サン。』
ニカッと爽やかな笑顔を私に向け、
ピシッとスーツをキメて
先に聡太は、仕事に戻っていく。
一人になった静かな会議室で、
ふぅーっと息を吐く。
聡太とは遊びのつもりだった。
始まりは、会社の忘年会で
飲み過ぎた私を送ってくれたはずの
聡太が朝気づいたら隣で寝てて、
ふたりとも服を着てないっていう
よくあるドラマな展開。
聡太には、奥さんがいる。
聡太は、仕事もできる上に部下の
面倒見もいいし、顔が何よりイイ。
”他人のモノ”だと言うのに
社内には目をハートにして見ている
女子社員は何人いるんだか。
ちょっと?いや、かなり口は悪いけど
それは私の前だけで、仕事中は
部下にも腰が低くて誰よりも丁寧。
二重人格を本気で疑う。
そんな彼に本気になってしまったのは、
いつからかもう思い出せない。
気付いたらこうなっていた。
身体は繋げられても、心はずっと
”他人のモノ”だ。
分かっているのにズルズルと
今に至る。
聡太の時に見せる、哀しそうな笑顔が
棗によく似ていて
放っておけないんだ。