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クラス ×イト
第2章 だメンず 【乾英太1】
「そう」
藍山さんは特に表情を変えるでもなく、無感情にそう答えただけ。
でも、その代わりに――
「……!」
何かに気がついたようにした後、藍山さんは徐に右手を動かすと、それを僕の方に伸ばし、彼女の手が僕の肩口に触れた。
「……!?」
僕は微動だに出来ずに、彼女の行為を見守る。その緊張の中で、彼女の手が僕の肩に残す、微かな感触だけが伝わっていた。
それもほんの数秒。僕から手を離すと、彼女は言う。
「ゴミ……ついてたから」
「あ……」
そう言われて見た彼女の指は、小さな紙屑を摘まんでいた。
たったそれだけのことに、僕は昂揚していて。だけど藍山さんにしてみれば、それは何でもないことなのだろう。
「じゃあ――サヨナラ」
彼女はそう言い残すと、僕に背を向けてその場から去って行った。
「……」
僕は暫くの間、その場から動けなかった。
挙動不審な自分の態度が、酷くカッコ悪く思えて。そして今更ながら、思う。
『それ、何の本?』
そのたった一言が、何で訊けなかったんだろう――と。
だけど、僕はわかっていた。その一言は、とても簡単で、でも僕にはとても難しいことなんだ。
だって僕は、結局。紙屑を取ってくれた彼女に「ありがとう」も。「さよなら」という簡単な挨拶すら、返していないのだから……。
藍山さんは特に表情を変えるでもなく、無感情にそう答えただけ。
でも、その代わりに――
「……!」
何かに気がついたようにした後、藍山さんは徐に右手を動かすと、それを僕の方に伸ばし、彼女の手が僕の肩口に触れた。
「……!?」
僕は微動だに出来ずに、彼女の行為を見守る。その緊張の中で、彼女の手が僕の肩に残す、微かな感触だけが伝わっていた。
それもほんの数秒。僕から手を離すと、彼女は言う。
「ゴミ……ついてたから」
「あ……」
そう言われて見た彼女の指は、小さな紙屑を摘まんでいた。
たったそれだけのことに、僕は昂揚していて。だけど藍山さんにしてみれば、それは何でもないことなのだろう。
「じゃあ――サヨナラ」
彼女はそう言い残すと、僕に背を向けてその場から去って行った。
「……」
僕は暫くの間、その場から動けなかった。
挙動不審な自分の態度が、酷くカッコ悪く思えて。そして今更ながら、思う。
『それ、何の本?』
そのたった一言が、何で訊けなかったんだろう――と。
だけど、僕はわかっていた。その一言は、とても簡単で、でも僕にはとても難しいことなんだ。
だって僕は、結局。紙屑を取ってくれた彼女に「ありがとう」も。「さよなら」という簡単な挨拶すら、返していないのだから……。