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クラス ×イト
第9章 けつダン 【去河要二】
 昇降口から入った廊下の脇で、俺は佐倉先生と向き合っている。

 どうも、保健室でのことが頭を過ったのは、俺だけじゃなかったみたいだ。たった今、俺を呼び止めながらも、佐倉先生は言葉を探して戸惑っているように見える。

 暫く俺の顔を眺め、それから先生は話し始めた。

「去河くん――お家のことで、大変なのね」

「そうでも、ねえって」

「ううん、長男として立派に家を支えようとしてるんだもの。君はとても――素敵」

「……」

 生まれてこの方「素敵」なんて言葉は、当然ながらこの俺には無縁なものだった。だからそんな風に言われちまえば、それだけで空でも飛ぶのかってくらいに舞い上がってしまう。

 だがそれって――大人である先生に「いい子だね」と、頭を撫でられているのと同じだと感じるから。やはり俺の気分は、すぐにどんよりと曇っていた。

 それでも――

「この前は、ごめんね」

「え?」

「去河くんの気持ちに、私……ちゃんと応えてはいなかった」

「先生……」

「こんな時に、こんな場所で――どうかしてるって自分でも思う。だけど、明日から君が学校に来ないと知って――伝えなくちゃ、応えなくちゃ――って、そう感じているの」

 佐倉先生は正面から、初めて俺に向き合おうとしていた。その覚悟みたいなものを感じ、思わず背筋を正して先生の顔を見据える。

 俺なりに必死に、それを受け止めようとしていたんだ。

 例えその結果が――


「去河くん。私は――北村先生が好き。だから――ごめんなさい」


 最悪なものだったと、しても……。
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